リハビリテーションと、ハビリテーション

リハビリについて:

もともと、リハビリテーションはラテン語のHabil(有能、役立つ、生きる)という言葉から生まれ、病気や怪我などをした場合に元のHabilの状態に戻す、つまりRe-Habilしていくという意味です。

リハビリテーションという概念や言葉は、今や医療や福祉の世界ばかりでなく、私たちの普段の生活の中でいろいろな場面で使われていますが、この概念が使われ始めたのは、それほど昔のことではありません。

第2次世界大戦の最中、イギリスはドイツからの爆撃機による空襲を受けました。これに対しイギリスでは戦闘機で対抗しましたが損害も多く、多くのパイロットを失い、また多くが損傷を受けました。

パイロットの養成には時間もかかり、イギリスではこれらの損傷を受けたパイロットを治療し、再び戦場に向かわせました。またそれ以外にも、身体的機能障害を持つ人を、軍需工業や労働市場に送り込む試みも行われました。

そのためには、機能障害を持つ人がそのハンディカップを持ちながらも出来ることを行うということが前提で、同時に、身体的・精神的な訓練を体系的に行いました。

大戦に参加した国々では、このように軍需産業や労働市場での労働不足を補う必要があり、特にイギリスでこのようなリハビリの試みは大きな成果をもたらしました。

また、戦争には参加しなかったスウェーデンにおいても、近代になって産業が進み、生産ということが社会の基盤となると、病気の人や機能に障害を持つ人を含め、治療による社会復帰ということが社会政策の上で重要な意味を持つようになりました。

40年代の後半、戦後の時期には、特にイギリスやアメリカで、このようなリハビリテーションの経験を、戦争による心身の疾患患者や成人の機能障害者だけでなく、特に脳性マヒによる機能障害を持つ児童の分野においても取り上げるようになりました。

同時に、精神医学や心理学などの分野での研究が進み、心身に障害を持つ子供たちへの特殊教育が始まり、療育としての施設も増えてきました。
また、社会保険などの制度化も進み、こうして、「身体的、心理的、社会的、職業的な能力が持てるまで回復させ、社会参加を目指す」というリハビリテーションの概念が定着していきました。

ハビリテーション:

50年代に入ると、生まれつき身体障害を持つ児童に対するケアの中で、児童やその家族などの状況やニーズへの関心や理解が深まり、特にイギリス・オランダ・アメリカなどで児童に対する「ハビリテーション」の考えが発達してきました。

生まれつき機能障害を持つ児童、あるいは自閉症やその他、生まれてから早期に機能障害を持つ児童は、「元に戻す」のではなく、その状況を基点として、その人の持つ機能の発達に焦点を当てなければならないわけです。

つまり、回復を見込んで治療するのではなく、その機能を有能化していくということです。

スウェーデンにおいてもこの治療に対する新しい考え方が広まっていき、施設や今まで家庭の中で隠れるように暮らしていた脳性マヒによる障害を持つ児童たちに対して、理学療法の治療や知的能力刺激などの治療を始めました。

やがて教育界や医療の分野においても、「生まれつき、あるいは早期に機能障害を持つ児童は、回復という次元で治療、療育することは出来ない」という観点が広まりました。

そして、今までのように障害というものを治す対象として、医療や療育の範囲で治療によって社会参加をさせるという視点から、障害を持ちながらも社会参加出来るための条件を、社会的にも整えていかなければならないというように、考え方の方向が変わっていきました。

また、障害を持つ人に必要なのは、障害を治す治療ではなく、障害を持つという状況で生活する上での支援と周りの理解であるということなど、次第に視野が広がっていきました。

そして、それはまた、50年代に生まれた「ノーマライゼーション」という理念によって社会化され、70年代に入ると制度化されるというように、現在に至るスウェーデンにおける障害者福祉の基盤となりました。

ハビリテーションチーム:

スウェーデンでは、ハビリテーションはリハビリテーションと同じように県自治体の管轄で、医療・教育・心理・社会およびテクニカルサポートによる連結された総括的な取り組みは、リハビリテーションの体系と同じです。

この連結された各分野の取り組みはハビリテーションチームと呼ばれ、児童ハビリテーションと成人ハビリテーションとに別れて、機能障害を持つ人の全人生期間にわたって支援が行われています。

リハビリテーションは、各病院や学校などでも行われますが、ハビリテーションチームは、県自治体の地域別にそれぞれハビリテーションセンターに置かれています。

児童ハビリテーションチームと、その役割の一例、

職種内容
作業療法士介助器具、住宅適応、ADL訓練、随意運動能力、知覚向上など
幼稚園教師幼児教育訓練、ADL訓練、幼稚園に対してのサポートなど
ハビリテーション
医師
診断、情報提供、医療的治療、コーディネーションなど
ケースワーカー家庭対応、危機的状況対応、社会適応支援など
言語療法士言語障害に際しての診断と訓練、コミュニケーションなど
心理士脳心理学的診断、発達状況へのフォロー、心理学的治療、危機対応
理学療法士随意運動能力診断と治療
看護師介護に関してのエキスパート、食事療法や排泄に関することなど
技術士介助器具などの適応性、開発など

成人ハビリテーションチームでは、例えば幼稚園教師はいないなど職種に違いはありますが、やはり同じような専門職がチームとして、利用者のニーズに合わせて社会での適応力の向上と、社会生活での支援に当たっています。

スウェーデンの医療制度について

ユニバーサルヘルスケアとスウェーデンの仕組み

その国の基本的な保健ケア制度、日本でも 1961 年に導入された国⺠皆保険などは一般的にユニバーサルヘルスケアと呼ばれていますが、スウェーデンは 1955 年に制度化されています。

ユニバーサルヘルスケアは、世界的には現在スウェーデンやヨーロッパ諸国、また日本も含め世界の約60カ国で制定されており、アメリカでは現在オバマケアが進行中です。

現在の世界のユニーバーサルヘルスケア制度の多くは、第二次世界大戦以降の医療制度改革によって生まれたもので、すべての国が署名した国連の世界人権宣言(1948 年)の第2502章において、すべての人が利用できなければならないとされています。

国連の人権宣言:

『第二十五条 1. すべての人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及および福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶 者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。』

スウェーデンでは、1980 年に制定された社会サービス法によって、医療ケアは、国、ランスティング(県自治体)、コミューン(地域自治体=市町村)の 3 つの行政機関の中で、県自治体がその責任を負い、管轄することになっています。

つまり、

国は法制度の制定、確立と監査の責任、医療ケアは県自治体、そして社会ケア (日本でいうところの福祉)は地域の自治体にその責任があるというように分割されています。

その上で、医療ケアは社会ケアと細かい連携をとって、治療やケア、また社会的なサービスを提供しています。

国はまた、県自治体や地域自治体の健全なサービスの提供を保証するために、社会庁(Socialstyrelse)が定期的な現場の監査を行っています。

・国(政府)= 政策、診療ガイドラインの制定、保険医療の課題を決定。

・社会庁 = 政府の定めた目標に従って県や地域自治体レベルの行政を
監督し、認可、許諾、サービス評価などを行う。

・県自治体(ランスティング)= 財政(歳出の約 91%は医療関連)、
および病院管理など医療サービス提供の責務と管理。

・地域自治体(コミューン)= 水道・社会福祉などの市⺠サービスの
他、障害者や高齢者の退院後ケアや精神疾患者の⻑期ケアなどの提供の責務。

公共部門と⺠営化について

スウェーデンでは、医療や福祉を管轄しているのは行政で、実施する病院や医療機関、また施設の運営などはそのほとんどが公共で行われてきましたが、医療や福祉のサービスが充実してくるに従って公共部門が肥大化し、非効率にもなってきました。

行政も官僚化して意思決定に時間がかかるという問題もありますし、医療の分野でも待ち時間の⻑さや、病院内のシステム構造や病院側と患者間の課題も出てきました。

また、1980 年代からの世界的な経済の停滞もスウェーデンの財政に影響を及ぼし、さらに特に福祉分野でのサービスの向上にしたがって歳出も増大してきました。

そのため、NPM(New Public Management)という、行政運営の非効率化を改め⺠間企業の経営原理や経営手法を取り入れた新しい行政管理論への議論が進み、市場メカニズムを可能な限り活用するという、現場の⺠営化を進める地域が出てきました。

90 年代に入ると、県自治体が管轄している病院やクリニック、薬局なども⺠営化されるようになり、患者がサービスを選択できるシステムも出来てきました。

現在では、教育分野の学校や保育園、福祉(社会ケア)では高齢者ケアや障害者ケアの分野でも⺠営化が進んでいますし、医療の分野では病院やクリニック、薬局や地域の医療センターや訪問看護の分野でも⺠営で運営されているところがたくさんあります。

⺠営と入札制度

公共の病院や医療サービス、また高齢者や障害者のケアの分野で⺠営化する場合、日本のように資産や責任、サービスの料金体系なども含めて⺠営に委ねるのではなく、スウェーデンの場合は あくまで運営を⺠営化するということで、サービスの責任や管轄は自治体が担っています。

つまり、利益追求型の⺠営化ではなく組織の⺠営化で、その目的はユーザーの選択範囲を広げることや、効果的なサービスの提供ということが挙げられます。

また、⺠営化の形としては、自治体が株式会社や協同組合、あるいは職員の団体などに対して入札を行い、サービスをいかに安くまた効果的に運営するかを基準として、自治体の要望に最も適している団体にその運営を委託するというものです。

そのため、サービスの料金は⺠営事業だから安いということではなく、自己負担額も同様で、価格競争ということはありません。

医療ケアの場合、例えは地域によって決められたかかりつけ医師による受診ではなく、医師や医療機関を選択できるようになり、⺠間の医療保険にも加入者が増えてきました。

当然、⺠営化の流れによって⺠間のクリニックも数多く生まれてきて、そこでは⺠間保険に加入するユーザーはすぐに受診が出来ますし、また公的なクリニックでは出来ない最先端の治療を受けることも出来ます。

しかし、

スウェーデンでは、現在この⺠営化が全国的に進んではいますが、サービスを提供する県自治体や地域自治体ではそれぞれの地域で住⺠のニーズや要望も違い、また、⺠営化に反対する意見も数多く、様々な分野で現在も議論が続いています。

実際に病気になったら…

まず、病気になった場合の「一般的」な概要について…。

病気や怪我で仕事を休む場合、休んだ2日目から2週間は、給料の80%が雇い主から支給されます。

また15日以降は、社会保険庁から「疾病手当」が、給料の約75%支給されます。

失業者、自営業者など雇い主がいない場合は、2日目から「疾病手当」が支給されます。

なお、8日目以降は医師の診断書が必要となりますし、疾病手当は最長364日間支給され、さらに、それ以降も職場復帰ができない場合は、医師の診断書をもとに最長550日間まで延長することができます。

受診料は県自治体によって異なりますが、ストックホルムの場合、

地域の医療センターの医師の受診料は、200クローナ(約2,400円)
専門医は350クローナ(約4,200円)
救急外来は400クローナ(約4,800円)
看護師は100クローナ(約1,200円)となっています。

また、入院の場合は、1日当たり80クローナ(約960円円)です。

年間の自己負担額には上限が設けられ、外来治療は900クローナ(約10,800円)、

医薬品は2,000クローナ(約24,000円)を超えると、それ以上は無料になります。

また、18歳未満の医療費は無料です。

地域での医療と医療センター

スウェーデンでは、住民の多い地域や中心になる地域には、「Vårdcentral=医療センター」があり、住民の生活と密接に繋がっています。

通常、何か具合が悪い場合には、最初に地区の医療センター(日本の保健所に相当)に行くのが一般的です。

最近では、ドロップ・イン(予約なしの直接訪問)は廃止され、電話で事前に予約しないと時間がとれないようになりましたが、電話で担当の看護師が、「その程度だったら暖かくして寝て、少し様子をみなさい」と指示されることもあります。

医師の診療は予約制ですが、看護師には順番待ち覚悟で行けば、直接すぐ会ってもらえることもあります。

医師の診断を受け、さらなる専門的医療が必要だと診断された場合、その医師の紹介状が県立病院か専門医クリニックに送られ、それらの医療機関から来院日時の連絡が来ます。

より重症な症状の場合は、全国に7つある大学病院に送られます。
また救急の場合は、それぞれの地域にある緊急指定病院か大学病院へ直接運ばれます。

医療センター(Vårdcentral)とは?

病院による医療に対して、地域医療は1次医療体制の中核として、各コミューンに設置された医療センター(Vårdcentral)に勤務する地区医師(Distriktläkare)と地区看護師(Distriktsjukköterska)が中心となって運営しています。

医療センターは全国に約2,000箇所設置されていて、各医療地域の特性によってその構成や機能をいろいろ変えて適応しています。

平均的な人員構成は、住民12,000人当たり地区医師4名、研修医数名、地区看護師8名、受付看護師数名、数名の准看護、また地域によっては臨床検査技師、理学療法士、栄養士、心理療法士などを含んでいます。

スウェーデンの地域医療の歴史は古く、1790年には現在の地区医師とほぼ同じ任務を持つ「地方医師「provinceläkare」という制度がありました。

この地方医師は住民の病を治療するだけではなく、その地域の風土や水質を調査し疫病を未然に予防するために健康診断を行い、住民に健康上の助言をすることも義務とされていました。

現在の地域医療は1970年代に整備された一般医学思想に基づく1次医療体制がその主体で、WHOの健康の定義である「心身、社会的に良好な状態にあることを意味し、単に疫病やハンディキャップのないことを言うのではない。」とあるのに対応した4つの任務、

つまり、⒈)住民の診療、⒉)リハビリテーション、⒊)心身の痛みの緩和、⒋)疫病の予防を目指しています。

地区医師の仕事は、⒈)外来診療、⒉)家庭訪問診療、⒊)児童保護センター医師・学校医師としての診療、⒋)高齢者施設の巡回診療、⒌)住民の定期検診、⒍)医療センター責任者としての管理業務・職員教育・自治体政策委員会に対する医学的助言、⒎)地域医療改善研究業務など、多岐にわたっています。

地区看護師は、家庭の訪問看護を行うかたわら、地区医療センターで治療看護に従事しています。

地区医療看護師はスウェーデンの医療職制の中では助産師と並んで独立性の高い職種で、地区看護師の重要な職務は家庭訪問看護です。

このように、住民の生活に密着して疫病の予防にも尽くしている地域は、地域での医療費軽減に役立っているのみならず、地域住民の死亡率減少にも貢献しています。