前にもこのサイトの記事で書いたことですけど…
最近は、スウェーデンのコロナ対策について、先入観なしにきちんと検証して書いている新聞記事も出て来たようですが…
ユニークな対応をしているスウェーデンのコロナ対策に対して、まだ批判的なニュースが流れているようですね。
スウェーデンの国民健康庁が何回も、「我々は、集団免疫を目指しているわけではない」と説明しているににもかかわらず、1回ついたイメージというのは払拭出来ないのか…
「集団免疫が目的のスウェーデン」とか「スウエーデンの感染対策は失敗だった」、あるいは「集団免疫を目指してロックダウンを回避するも、経済は伸びず」などという論点で報道するマスコミは後を絶たないようです。
スウェーデンのコロナ対策については、このサイトでもいくつか書いています。
例えば、スウエーデンのコロナ対策の責任者であるアンダッシュ・テグネール博士が、「反省するところもある」と言ったことへの反応に対する説明とか、
また、高齢者介護施設の死亡率が高いことについて、外国人介護員の就業状況とか…いろいろ書きました。
まぁ、今の日本では様々な論調があるので、それらの報道を見ていただければわかると思いますけど…
ここで、なぜスウエーデンでは「ロックダウンしない・出来ないのか」について、その理由の一つでありながら、ニュースにはほとんど触れられてないことがあるので、ちょっとご紹介したいと思います。
それは、スウェーデン人なら誰でも自然に身についている、「Allemansrätten」についてです。
フィンランド語では、Jokamiehenoikeus (ヨカミエヘノイケウス)
英語では、right to public access(公開アクセス権)
日本語では、「公衆アクセス権」というか…「歩き回る権利」というか…
中には、「自然享有権」、「自然享受権」、「万民権」などと訳す人もいます。
どういうことかというと…
端的に言うと、「誰でも自然の中を自由に行動することが出来る」という、法律で保証された権利で、この権利は外国人にも観光客にも適応されるものです。
細かく説明すると…
「人が住んでいる家の邪魔をしないだけの距離があれば…」という前提の基に、
・他人の土地でも立ち入ってよい。
・同じく、邪魔をしなければ、他人の土地の塀、石垣、木戸を通過してもよい。
・きのこ、ベリー、花は保護植物でない限り、他人の土地でも採ってよい。
・他人の土地でテントを張って、1、2泊なら泊まってもよい。
(ただし、キャラバンで宿泊する場合には、持ち主の承諾がいる)
・周囲を傷つけなければ焚き火をしてもよい。
・森の中の小道は、他人の土地でもドライブしてよい。
・ボートを他人の桟橋に止めてもよい。
(ただし、完全なプライベート桟橋(庭に続くような)はだめ)
・同じく、邪魔をしなければ、他人の湖で泳いでもよい。
してはいけないこと:
・住んでいる人の住居内が見えたり、話し声が聞こえたりするところに立ち入ってはいけない。
・小麦など畑の植物は、とってはいけない。
・保護している植物をとってはいけない。
・鳥の巣や、たまご、ひななどをとってはいけない。
・誰かの土地を傷つける行為をしてはいけない。
・他の人の所有する湖で、魚を釣ってはいけない。
などです。
まとめていうならば、
他人の居住空間の邪魔にならなければ、他人の土地を通ったり泊まったり、散歩をしたり、泳いだり、キノコ狩りをしたりして構わないということです。
つまり、どこにいようと、あるいは行こうと、他人の家の邪魔にならなければ、それは万人の権利である…ということです。
法律で保障されているということは、「誰がどこに行こうと、誰にも止める権利はない」ということです。
もちろん、外国人や観光客がスウェーデンの軍事施設や基地には入れませんし、いざ戦争ということにでもなれば、非常体制が取られるので制限はされますが…
これが法律で権利を保障されていますから、国といえども、人の行動(どこで何をするか)を制限することはできないということです。
これは、「自然は万民のものである」という、すべてのスウェーデン人が共有している認識ですが…
他の北欧諸国にも同様の法律があるとはいえ、この点ではスウェーデンが一番寛容でしょう。
例えば、フィンランドでは、キャンプファイヤーを行う場合は許可を取らなければならないし、釣りも料金を支払わなければいけない場合もあります。
また、ノルウェーはキャンプ自体ができない期間がありますし、何種類かのベリーは摘むことができません。
また、他人の土地には一切入ってはいけないデンマークやドイツからの観光客が、夏になるとスウェーデンにやってきて、あちこち自由に泊まり歩くのも…
外国人や観光客にも、この「公衆アクセス権利」が保証されているからです。
この考え方自体は古くからあるもので、この権利は西暦1200年のスウェーデンの文書にすでに登場しているといいますから、もう何百年もこの伝統を守っているわけですね。
コロナの「ロックダウン」というのは「都市封鎖」ですから、市民はその地域から移動できなくなります。
また、他の地域の人も、例えばストックホルムに来ることは出来なくなります。
これが、例えば戦時中などという国の防衛をしなければいけない時ならともかく、それ以外に、市民の「自由に、どこへでも移動できる権利」を禁止するというのは、憲法上出来ません。
要は、今のコロナ感染が戦争中と同じ状況にあるかという判断をしなければ国民は納得しないし、仮に「これは戦争と同じ状況だ」という判断をしたとしても、それじゃあ国民はまた納得しません。
スウェーデン人にとって、行動の自由というのは神聖で崇高なものですし…
また、この権利は、世界でも実にユニークなものです。
そのユニークな権利を持つスウェーデンが、コロナ対策でユニークな対応をすというのも、正に自然なことだと思いますね。
まぁ、「Allemansrätten」についてでしたが…
スウエーデンでは、コロナに関して…
「自然にあるがままに…!」
「気をつけることは、守れ…!」
「他人に対しては、自分の責任を持て…!」
ということでしょうね!
最後ですけど…
スウェーデン、コロナも…今は落ち着いて来ていますよ!